おさぴーのシニアライフ実験室

無理せず、面白く。暮らしを愉しくする小さな実験記録。

塩竈「すし哲」で、寿司の向こう側を味わった

 

先日の仙台旅で、忘れられないお寿司屋さんに出会いました。

塩竈にある「すし哲」さん。

いや、正確に言えば「出会った」というより、連れて行ってもらったのです。
しかも、ただ美味しいお寿司をいただいたという話ではありません。

お寿司の味。
大将の仕事ぶり。
お店全体に流れている気遣い。
そして、そこに集う人たちとの時間。

それらが重なって、心の奥の方がじんわり震えるような体験になりました。

「また行きたい」

帰り道にそう思うお店はあります。
でも、今回の「また行きたい」は少し違いました。

「あの場所に、もう一度身を置きたい」
そんな気持ちになったのです。

 

 

仙台旅の本命は、塩竈のお寿司だった

今回の仙台旅は、気の置けない仲間たちとの旅でした。

おさぴーには、山本由紀子さんという大切な心友がいます。
岐阜と京都で百年以上続く老舗呉服屋さんの元女将さんで、今は着物のある暮らしや日本文化の魅力を発信し続けている方です。

 

由紀子さんとは、小阪裕司先生が主宰される「ワクワク系マーケティング実践会」で出会いました。

この会では、年に一度、全国の会員さんの中から特に学びになる発表をした人が表彰されます。
その舞台が、なんとブルーノート東京。

ジャズの殿堂を貸し切って行われる表彰式です。

そこでグランプリをいただいた人たちは、会の中ではちょっとしたレジェンドのような存在になります。
由紀子さんも、おさぴーも、そのグランプリ・ホルダーです。

そのご縁から、学び合ったり、時には喧々諤々と語り合ったりしながら、長いお付き合いをさせていただいています。

 

そして、そのグランプリ・ホルダーの中でも特に気の合う数名で、ゆるやかに続けている旅の会があります。

名前は、MKIG。

「もう軽井沢に行けないグループ」の略です。

なんとも変な名前ですが、これには理由があります。
かつて表彰の副賞として、軽井沢にある近衞山荘でのご褒美合宿があったのです。

そのご縁から始まった仲間たちとの旅も、気づけば今年で12年目。

年に一度、多い時には年に数回、
「ここへ行きたい」
「この人に会いたい」
「これを食べたい」
という場所へ出かけます。

今回の行き先が仙台でした。

 

MKIGの大事な仲間たち、まん中が由紀子さんです。
左:新潟のプリンさん、右:長野の米ちゃん

 

宿は仙台の奥座敷、秋保。
朝から夜まで、よくまあこれだけ話すことがあるなあというくらい語り合います。

観光もします。
美味しいものもいただきます。
でも、いちばんの目的は、やはり「人と会って話すこと」なのだと思います。

その今回の旅で、由紀子さんがどうしてもみんなに食べさせたいと選んでくれたのが、塩竈の「すし哲」さんでした。

 

 

「美味しい」の前に、空気が違っていた

お店に入った時から、どこか空気が違っていました。

もちろん、肩肘張るような緊張感ではありません。
むしろ、温かい。

 

大将をはじめ職人の皆さん、メッチャいいお仕事なさっています。

 

お店の方々の所作が自然で、無駄がなく、こちらへの目配りがさりげない。
必要な時に必要な言葉があり、余計な押しつけがない。

こういうお店は、入った瞬間にわかります。

「ああ、ここはちゃんとした仕事をしている場所だ」と。

そしてカウンターに座り、大将にお任せして出していただくお寿司を一貫ずついただいていく。

 

お酒はいただきませんでしたが、お寿司の前にお勧めのネタを

 

これがもう、参りました。

ネタが新鮮だとか、旨みが濃いとか、そういう表現はもちろんできます。
でも、それだけでは足りません。

口に入れた瞬間に、魚の力がすっと立ち上がる。
シャリとのほどけ方が美しい。
余韻があるのに、重たくない。

 

お任せで握っていただいたお寿司、この他にもいろいろ注文もしました。

 

一貫ごとに、ただ魚をのせているのではなく、そこにきちんと「仕事」があるのです。

それも、これ見よがしな仕事ではありません。

素材を前に出すための仕事。
食べる人に一番よい状態で届くようにする仕事。
一貫の小さな世界の中に、長年の経験と判断が詰まっている。

お寿司って、こんなにも静かに人を感動させるものなんですね。

 

大将の話が、またご馳走だった

そして、すし哲さんで心に残ったのは、お寿司だけではありません。

大将のお話が、実に面白かったのです。

 

大将のお話を伺っているだけで、もう旅の元は取れました (笑)

 

どのように良いネタを仕入れるのか。
なぜ、その魚を選ぶのか。
どうすれば、その日その時の一番よい状態で出せるのか。

そんな話を、押しつけがましくなく、自然に聞かせてくださる。

これがまた、たまらない。

おさぴーは靴屋です。
足を見て、靴を見て、その方に合う一足を考える仕事をしてきました。

だから、大将の話を聞いていると、単なる料理人の話ではなく、同じ「目利き」と「手仕事」の世界の話として響いてくるのです。

魚を見る目。
仕入れ先との信頼関係。
その日のお客さまにどう出すかの判断。
積み重ねてきた経験が、一瞬の所作に出る。

これは靴選びにも通じます。

良いものを並べるだけでは、プロの仕事にはなりません。
その人にとって、今この瞬間に何が一番よいのか。
そこまで考えて差し出すから、仕事に魂が宿るのだと思います。

美味しいものをいただきながら、人生と仕事の勉強までさせてもらっているようでした。

これはずるいです。
お寿司だけでも十分すごいのに、学びまで付いてくるのですから。

 

「この値段でいいの?」と思ってしまう満足感

正直に言います。

この内容で、この価格でいいのですか。
そう思いました。

もちろん、決して安い食事ではありません。
日常の昼ごはん感覚で、ふらっと行く金額ではないでしょう。

でも、いただいたものの質。
大将の仕事。
お店の気遣い。
そこで過ごした時間。

それらを考えると、むしろ驚くほど納得感があります。

東京の銀座などに行けば、もっと高額なお寿司屋さんはいくらでもあるのでしょう。
でも、おさぴーが今回感じたのは、値段の高低ではありません。

「この体験に、この価格で出会えるのか」

 

お腹いっぱい食べた後に、またこれをいただいてしまいました。

 

そこに驚いたのです。

お腹いっぱい、食べたいものをいただいて、心まで満たされる。
そして、帰る頃には「また来たい」と本気で思っている。

こういうお店は、そう多くありません。

 

旅の目的は、名所だけではない

旅というと、つい観光名所をいくつ回ったか、どこで写真を撮ったか、何を見たかに意識が向きます。

でも、今回あらためて思いました。

旅の本当のご馳走は、人なのかもしれません。

連れて行ってくれた由紀子さん。
一緒に食卓を囲んだ仲間たち。
そして、カウンターの向こうで真剣に寿司を握ってくださる大将。

その人たちがいて、あの時間が生まれた。

ただお寿司を食べただけなら、ここまで心に残らなかったと思います。

大切な人が、
「ここは本当にいいから」
と案内してくれる。

その先に、期待を超える体験が待っている。

これは、なんとも贅沢なことです。

今回の旅を企画し、アテンドしてくれた由紀子さんには、もう感謝しかありません。

 

また塩竈へ行く理由ができてしまった

一緒に行った仲間たちも、食べ終わる頃にはすっかりその気になっていました。

「ここなら、また来られるよね」
「今度は家族を連れて来たいね」
「車で数時間なら行けるなあ」

そんな会話が自然に出てくる。

おさぴーも同じです。

家内はなかなか一緒に旅をしてくれないので、たぶん一人で行くことになるでしょう。
でも、それでも行きたい。

塩竈まで行って、またあのカウンターに座りたい。
大将にお任せして、一貫ずつ素直に味わいたい。

その日その時の海の恵みをいただきながら、また少し人生のヒントをもらいたい。

そんなふうに思えるお店でした。

 

寿司の向こう側にあったもの

今回の「すし哲」さんでの時間は、単なるグルメ体験ではありませんでした。

もちろん、お寿司は素晴らしく美味しかった。
それは間違いありません。

でも、それ以上に心に残ったのは、
「よい仕事とは何か」
「人を喜ばせるとはどういうことか」
「また会いたい、また行きたいと思われる場所は、何でできているのか」
ということでした。

素材。
技。
目利き。
気遣い。
言葉。
空気。
そして、人。

それらがきれいに重なった時、人はただ満腹になるのではなく、心まで満たされるのだと思います。

塩竈「すし哲」さん。

おさぴーにとって、また何度でも行きたくなるお店ができました。

仙台や塩竈へ行かれる方には、ぜひ一度訪ねてみてほしいです。

ただし、ひとつだけご注意を。

美味しいお寿司を食べに行ったつもりが、
人生の宿題まで持ち帰ることになるかもしれません。

それくらい、心に残るお店でした。